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「おにーーーちゃーーーんっ」
ベルは紙袋を両手で抱えて兄の元へ走った。袋にはリンゴが山のように入っている。
リンゴの隙間から覗く、満面の笑み。
ベルの表情に兄・アディも思わず破顔した。
「ロランさんがいっぱいおまけしてくれたよ!」
「そうか」
アディは果物屋の主人・ロランに向けて辞儀をした。店の軒先で元気よく叩き売りしていた店主は「どうも」とうやうやしく帽子を取った。
ベルは、つやつやしたリンゴに負けないくらい顔を輝かせている。アディはベルの頭を撫でた。ベルの顔はさらに照れと誇りに彩られた。兄は思い出したように言った。
「ベル、ロランさんにありがとうって……」
「言ったよ!」
わかってるもん、というふうに被り気味に返答するベル。兄も、えらいぞ、と言わんばかりに大きく頷いた。
商店街を並んで歩きながら、アディは言った。
「すまないな、ベル。お兄ちゃんが持ってやれなくて」
「こんなの、へっちゃら!」
ベルは鼻息荒く言い、むしろ心配そうに兄を見た。
「おにいちゃんこそ、足痛くない? 胸、苦しくない?」
アディの左腕は三角巾で肩から吊られ、右足はわずかに地面にひきずっている。肩が上下するほどの呼吸は、確かに少々苦しそうだ。「へっちゃらさ」
ニッと笑って右腕だけでガッツポーズする兄に、ベルは少し安堵した。だが、
「やっぱり、まだ早いんじゃないかなぁ……おうちで寝ててもらえばよかった」
ベルが心配そうにつぶやくと、
「何言ってる。先生も言ってたろう。リハビリになるから少し歩きなさいって」
「少しって、どのくらい……? 商店街まで来ちゃ、歩きすぎなんじゃ……?」
「ベルは心配性だなぁ。誰に似たのか……」アディは苦笑いしたがすぐにベルの頭をポンポンと撫でた。「帰ったら、一緒に晩メシ作ろうな」
「うん!」
おにいちゃんと一緒にごはん!
家族なら毎日一緒にごはんを作って食べるなんて当たり前のことだけれど、やっぱりうれしい。
ベルはおにいちゃんが大好きなのだ。
誰も見てなければおにいちゃん大好き! ……と飛びついてしまうところだけれど、さすがに夕方の商店街では人目があって恥ずかしい。
こみ上げるうれしさを抑えたらベルは、無意識にスキップし始めてしまった。
すると、抱えていた紙袋からリンゴがみっつ、落っこちた。
「あっ……」
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