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(これは……魔法!?)
ベルが直感すると、アディが剣を振りルーシーが指先をはじいた……ふたり、同時に。
炎が躍り、氷が舞った。
ふたつの力がぶつかった場所で、まるで空間が弾けるような奇妙な爆発が起きた。
(火事になっちゃう! 家ごと凍っちゃう!? それよりおにいちゃんは!? ルーシーさんは!?)
ベルは慌てたが、室内は先ほどのままだ。風ひとつ吹いた形跡もない。アディもルーシーも傷ひとつない。
……と、その瞬間。
ルーシーが床にへたり込んだ。
アディは彼女を一瞥し、
「ふ……。空間に防壁(バリア)を張った分、自身の防御が遅れたか」
嘲笑めいて再び剣を構えたが、彼もガクッと片膝をついた。
ルーシーはケホケホと軽く咳き込み、
「あなただって、真っ先に防御(シールド)を作ったくせに」
彼女はそう言って立ち上がった。
「……ベルちゃんの周りに」
(え……!?)
ベルは驚いたが、そう言えば炎と氷の爆発が起きたにもかかわらず熱くも冷たくもなかった。
(おにいちゃんが守ってくれた……?)
「ふ……。何が『怪我でもしたらどうするの』だ。偽善者め」
アディはルーシーを睨んだ。
「貴様、守ったのは自分の家だけだな。自分勝手な女だ」
「アディなら必ずベルちゃんを防御すると信じていたからよ」
クス。ルーシーの笑声は複雑な感情をはらんでいた。
「『偽善者』も『自分勝手』も、あなたのためにあるような言葉……熨斗つけてお返しするわ」
アディはまとわりつく空気を払いのけるように剣を斜めに一振りした。
「あの本をベルに与えたのも貴様か」
「そうよ。文字を読めば知識を、経験を、そして記憶を求めるわ……」
「だから……与えなかったんだ!」
「ひどいお兄ちゃんね」
ルーシーの姿が窓辺から消えた。
一瞬ののち、アディを後ろから羽交い締めにしていた。
彼女の手と足からは動物の尻尾のようなしなやかな氷が幾筋も現れ、羽交い締めをさらに強固なものにした。
人質にでもするように、アディの喉元に氷の刃が添えられた。
「ごめんね、ベルちゃん。あなたのお兄さん、こうでもしないと会話にならないから……」
ルーシーはベルがぼうっとしているのを見て、安堵のため息をついた。
「よかった。夢の中の出来事だと思ってくれればいいけれど……なんて思うのはあなただけよね、アディ」
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