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アディは背後のルーシーを睨みつけた。ルーシーは意にも介さず続ける。
「ねぇ、アディ。冷静になりなさい。あの子をあなたと二人だけの世界に閉じ込めて……正確に言えばあの子、たったひとりだけを閉じ込めているのよ?」
アディは氷の縄を解こうと身をよじった……が、ルーシーも氷もびくともしない。
「アディ……」
ルーシーは長いため息をついた。
「あの子を、どの世界にも触れさせないつもり? 私たちのこの世界にすらも……」
(世界……? 触れさせない……?)
ベルは目の前の予想だにしない状況に震えがおさまらずにいたが、少しずつ思考力を取り戻していった。
そんなベルを見て、ルーシーは微笑んだ。しかし目は笑っていない。むしろ哀しげに潤んでいる。
「……皮肉なものね。冷静になったのはあなたじゃなくてベルちゃんよ」
「……」
無言のアディ。しかし彼の剣が再び陽炎で包まれる。
「アディ、やめておきなさい」
ルーシーが早口で言う。
「あなたはまだリハビリ中。あの程度の魔法攻撃と防御魔法で膝をついていたじゃないの。これ以上は……」
ルーシーの作り出す氷が、さらに強く、アディを締め付ける。
「死ぬわよ」
アディの剣の陽炎が赤みを増す。
「死ぬのは貴様だ」
アディは剣を振り上げルーシーの氷を切り裂いた。
「きゃぁ!」
ルーシーの悲鳴は、氷魔法を破られたためではなかった。彼女は愕然としてアディの姿を見ていた。
アディの喉元から腹部にかけて……湯気を上げながらだくだくと血が流れていた。
炎の剣の魔法で、自らの躰ごと、ルーシーの氷を切り裂いたのだ。
「なんて馬鹿なことを、アディ! 動かないで。今、治療するから……」
「まやかしの治癒魔法など、傷が悪化するだけだ」
ルーシーはグッと息を詰まらせた。みるみるうちに彼女の目に涙があふれた。
「……ひどいわ」
「古傷をえぐったか」
アディはルーシーを抱き寄せた。
「すまない」
ふたりが抱き合った瞬間、
「あぅっ……」
ルーシーが苦悶の声をあげた。
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