第四話 アディとルーシー

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 アディは背後のルーシーを睨みつけた。ルーシーは意にも介さず続ける。 「ねぇ、アディ。冷静になりなさい。あの子をあなたと二人だけの世界に閉じ込めて……正確に言えばあの子、たったひとりだけを閉じ込めているのよ?」  アディは氷の縄を解こうと身をよじった……が、ルーシーも氷もびくともしない。 「アディ……」  ルーシーは長いため息をついた。 「あの子を、どの世界にも触れさせないつもり? 私たちのこの世界にすらも……」 (世界……? 触れさせない……?)  ベルは目の前の予想だにしない状況に震えがおさまらずにいたが、少しずつ思考力を取り戻していった。  そんなベルを見て、ルーシーは微笑んだ。しかし目は笑っていない。むしろ哀しげに潤んでいる。 「……皮肉なものね。冷静になったのはあなたじゃなくてベルちゃんよ」 「……」  無言のアディ。しかし彼の剣が再び陽炎で包まれる。 「アディ、やめておきなさい」  ルーシーが早口で言う。 「あなたはまだリハビリ中。あの程度の魔法攻撃と防御魔法で膝をついていたじゃないの。これ以上は……」  ルーシーの作り出す氷が、さらに強く、アディを締め付ける。 「死ぬわよ」   アディの剣の陽炎が赤みを増す。 「死ぬのは貴様だ」  アディは剣を振り上げルーシーの氷を切り裂いた。 「きゃぁ!」  ルーシーの悲鳴は、氷魔法を破られたためではなかった。彼女は愕然としてアディの姿を見ていた。  アディの喉元から腹部にかけて……湯気を上げながらだくだくと血が流れていた。  炎の剣の魔法で、自らの躰ごと、ルーシーの氷を切り裂いたのだ。 「なんて馬鹿なことを、アディ! 動かないで。今、治療するから……」 「まやかしの治癒魔法など、傷が悪化するだけだ」  ルーシーはグッと息を詰まらせた。みるみるうちに彼女の目に涙があふれた。 「……ひどいわ」 「古傷をえぐったか」  アディはルーシーを抱き寄せた。 「すまない」  ふたりが抱き合った瞬間、 「あぅっ……」  ルーシーが苦悶の声をあげた。
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