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「お母さん、お母さん」 「あら、いけない。寝坊してしまったわ。すぐに朝ごはんの支度するわね」 またあの夢をみた。懐かしい、優しい夢だ。ずっと見ていたかったのに。 幸子は髪を手で整えて外で七輪に火を熾し、その上に鍋を置いてパラパラと米を入れた。今日も雑炊である。米も随分と減ってしまった。買い出しに行かないといけないわねえ。幸子は自分の箪笥に残っている着物類を思い浮かべた。あの藍大島のお対を売り払おうか。  焼け野原だしバラックばかりだけれど、人々の顔は皆一様に明るい。  もう空襲に怯えて逃げ回らなくていいんだもの。消せるはずのない火を消すためのくだらないバケツリレーやら、竹槍で敵機を撃ち落とすなんて練習を真面目な顔をしてやらなくていいのだもの。とはいえ、仕事もなくこの先どうすればいいのか幸子には皆目見当がつかない。せめて男手があれば、と幸子は心の片隅でチラリと思う。 「さっちゃん、おはよう」 隣組の班長さんの奥さんが声をかけてきた。 夫を亡くした幸子とふたりの子供に夫婦揃って良くしてくれる。 「早坂のおばさん、おはようございます」 「いい天気だね」 「ほんとうに」     
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