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「そうですか。いつも申し訳ありませんわ」 何をお礼にしようか。ブラウスかアッパッパでも縫ってさしあげようかしら。幸子の家にはミシンも宝石類も残っている。絶対に差し出すな、と夫がいったからだ。英国帰りの夫は戦争には負ける、と負けたあとの算段を言い置いていった。その言葉を幸子は忠実に守った。夫の言っていたことは全て本当になった。それなのに夫だけがいないというのは、幸子には全く納得がいかない。 「気にしなくていいのよぉ。うちはさっちゃんを本当の娘みたいに思っているんだから」 気さくな早坂夫人はにっこりと笑った。 「ああ、そうそう。これ、さっちゃんなら学もあるし、どうだろうって、うちのが」 早坂夫人が差し出したのはザラ紙に印刷された新聞の切り抜きだった。
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