spice01.告白

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ドクンと心臓が跳ねる。 至近距離に映ったのは、黒いシャツ。 背が高いようで、若干の威圧感と不安を覚えながら、ゆっくりと顔を上げる。 シャツからのぞく、形の良い鎖骨。 スラッとのびる首筋。 細く弧を描いた顎。 薄い唇。 筋の通った鼻。 綺麗な、切れ長の目。 その瞳と視線が繋がって、ハッと息を呑んだ。 「あ………」 貴方は、誰。 そう言いたいのに、さっきまで走っていたせいで、喉の奥が詰まって上手く声が出せない。 彼は、無表情のまま、じっと私を見つめた後、少しだけ顔を近付けた。 ふわ、と。爽やかでほんのり甘い匂いが、かすかに鼻を抜ける。 「……大丈夫か?」 短く、低い声が、ズン、と胸の奥を揺らした。 「あ、えっと、何が、」 やっと出た声が、挙動不審のように途切れ途切れに絞り出される。 何が、なんて白々しい。 自分で言っておきながら、そう思った。 脇目も振らず、校内を全速力で走り続ける女。 あてもなく、人の波を横切って。 誰が見たって、何もないわけがない。 きっと、この人にも、そう思われたんだ。 時間の経過とともに、上がっていた息が徐々に落ち着いていく。 苦しかった呼吸が穏やかになったせいで、思考がゆっくりと働き始める。 考えたくなかったことを、脳が勝手に掘り起こしていく。 嫌だ。嫌だ。考えたくない。 「わ、私、行きますので……」 慌てて言葉を紡いで、頭を下げ、彼から離れようと足を踏み出した。 だけど、彼は私の二の腕を掴んだまま放してくれない。進めない。 「あの……」 恐る恐る振り向いて顔を上げると、もう一度、綺麗な切れ長の瞳と目が合った。 思わず心臓が跳ねる。 射抜くような瞳。 鋭く心の内まで見透かされそうな。 だけど、そんな中に、優しい色が浮かんでいて、不思議にも目が離せなくなる。 囚われてしまったように、その瞳に魅入っていると、表情の変わらない彼の口がゆっくりと開いた。 「……泣きそうな顔」 「…………え……」 静かに響いた彼の低い声は。 今にも湧き上がりそうだった危うい感情に、優しく、優しく、触れた。
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