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コツ、コツ、と二人分の靴音だけが反響する。
それが静けさを助長して、緊迫した空気が流れていく。
壁に並ぶ“研究室”と書かれたドアは、どれも教授の名前が空欄のまま。本当に空き部屋しかない。
こんな所、学生も教授も来ることはないはずなのに、彼はまるで知り尽くしたように奥まった場所へと進んでいく。
向かっていく先は、天井の蛍光灯が古びた光を放っていて妙に薄暗い。
不安がますます大きくなって、歩くスピードをわざと落とした。
「……不安?」
ポツリと。前を歩いていた彼が短く言って、ピタリと足を止めた。
は、と息を呑んで、立ち止まる。
歩く速度を落としたのがバレたんだ。
足音すら無くなった無音の廊下に、ドクドクと心臓を打ち付ける脈の音が響く。
何と答えればいいかわからなくて黙りこくる私に、ゆっくりと彼が振り返った。
薄暗さに映えるシルエット。
それは、計算され尽くされた芸術作品のように完璧で。
蛇に睨まれたように動けなくなった体が、脈だけを刻む。
彼の伏し目がちな流し目が私を捉えた瞬間、息が詰まって、私の意図しない体の奥底で何かが音を立てた気がした。
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