spice01.告白

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「そんな怯えなくていい」 落とされた低い声は、私を安心させるように優しく響いた。 彼を信用できる決定的な何かなんて何もないのに、胸を覆っていた不安がジワジワと溶けていく。 それによって得られたものは安堵ではなくて。 よくわからないけど、奥の方で何かがソワソワと騒ぎ立てている。 「だ、大丈夫、です」 少し裏返えりながら返事をすると、彼は視線を戻して、また歩き始めた。 コツ、コツ、と足音が響く。 古びた蛍光灯が、ジリリ、とたまに音を立てる。 さっきまでと同じ、静かで薄暗い廊下なのに、もう不安は感じなかった。 このまま、ずっとずっと遠くまで行ってしまいたいとすら思う。 香恋も春木先輩もいない見知らぬ世界へ――。 しばらく歩くと、廊下の一番端までたどり着いて、彼が立ち止まった。 それに合わせて私も止まると、彼の視線が左横にある階段へ向く。 「着いたよ。あんたが泣ける場所」 「え?」 彼の視線の先を見ると、そこは全く使われていないまま掃除だけ行き届いた綺麗な階段。 「そこなら、誰も通らねーから」 そう言われて初めて、彼の目的を理解した。 彼は、私を、気兼ねなく泣ける場所に連れてきてくれたんだ。
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