想い

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好きだ。好きなんだ。 いつまでたっても言えない。きっと僕には一生言えないのだろう。伝えることができないのだろう。 3歳の頃から僕は話すことができない。声が出ないのだ。話したいけど話せない。言いたいけど言えない。このことを分かってくれるのは僕と同じ症状の女の子だけだった。小学1年生になるまでずっと一緒にいた同い年の女の子。中学生となった今でもはっきり覚えてる笑顔と『みーちゃん』と呼んでいたこと。でも、肝心の名前が思い出せない。まぁ、それもそのはず。だって6歳のときの記憶だからな。あの子は、僕の初恋の相手だ。話すことのできない僕たちは手話で会話するのが当たり前だった。でも、周りから見たらなんの話をしているのか全く分からずいつもほっとかれていた。それが正直僕にとったら凄く都合が良かった。だって、好きな子と2人きりでずっと話せたから。その時が一番幸せだった。でも、絶頂からの転落はすぐだった。僕は話せないにも関わらず小学校には無理矢理通わされることになっていた。それを知ったのは外出許可を得て家に帰った次の日だった。本当は退院だったのに親は外出許可を得たから家に帰ろうという嘘をつき僕達にちゃんと別れをさせてくれなかった。そこで僕達の関係は途切れた。 …はずだったのに。僕は呆然と前を見てる。黒板の前にはついさっき先生に僕と同じく話すことの出来ない、大人しそうな外見の女子が立っている。黒板には『北本湊』という恐らく目の前にいる子の名前だろう。そういえば、今日転入生が来るとか言ってたな。 「じゃあ、北本の席は笠間の隣なー。笠間ー、手上げろー」 なぜ隣にするのだ先生。素直に手を上げると北本は僕の隣の席に座った。 『よろしくね』 北本の笑顔がみーちゃんの笑顔と重なった。 『みーちゃん?』 もしかして、こんな偶然ありえるのだろうか。 『うん!』 あの時と変わらないキラキラした笑顔で隣で笑ってくれてる。 これ以上幸せはいらない。伝えられないと思っていた言葉。後悔しないためにも今君に伝えるよ。 好きだよ。
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