2.

7/19
前へ
/96ページ
次へ
* 支倉が結依のクラスの数学を見始めて、ひと月余り。 「おっはよー、支倉先生!」 二年生の女子の集団が、校内で支倉を捕まえた。 「よう、おはよう」 背広を引っ張られ、腕を引かれても支倉は笑顔だ。 「Happy birthday! はい、これプレゼント!」 二人の女子が、大きめの箱を差し出した。 今日は五月十三日、支倉の28歳の誕生日だ。 「ごめんな、そういうのは受け取らない事にしてる」 やんわり手の平で押して、それを離した。 教師になってすぐ、やはり女子にたかられた。若くてそれなりにカッコいい自分に好意を持たれるのは、まあある事だろうと思っていた。しかしこの教師は喜んで受け取ってくれると思ったのか、それから3日ほどプレゼント合戦が続くと、校長に叱責された。 翌年からは一切受け取るのをやめた、結婚したのもあって、生徒からのアプローチも年々減った。 そしてこの学校での二度目の誕生日、昨年も断ったが、今年は個人ではなく、グループで、とでも思ってくれたようだ。 「えーいいじゃん! 邪魔にならなそうなの選んだよ!?」 中身はタオルだ、サッカー部の顧問をしている支倉に使ってもらおうと思ってのことだ。 「ごめん、ごめん。例外なく断るって決めてるから」 それは本当だ、教え子に特別もなにもない。 「ええーっ、マジで!? これどうすんの!?」 その会話は、結依にも聞こえた。 (例外なく──) 支倉の言葉が耳に残った。 * 結依は今日も職員室のドアの前に立つ。 小さな深呼吸をして、不自然に膨らんだブレザーのポケットを確認した。 朝方見た光景を思い出す、後輩の女生徒達が差し出すプレゼントを、支倉は「例外なく受け取らない」と言っていた……。 (受け取ってくれなくてもいい……折角、先生の為に作った)
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

565人が本棚に入れています
本棚に追加