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支倉が結依のクラスの数学を見始めて、ひと月余り。
「おっはよー、支倉先生!」
二年生の女子の集団が、校内で支倉を捕まえた。
「よう、おはよう」
背広を引っ張られ、腕を引かれても支倉は笑顔だ。
「Happy birthday! はい、これプレゼント!」
二人の女子が、大きめの箱を差し出した。
今日は五月十三日、支倉の28歳の誕生日だ。
「ごめんな、そういうのは受け取らない事にしてる」
やんわり手の平で押して、それを離した。
教師になってすぐ、やはり女子にたかられた。若くてそれなりにカッコいい自分に好意を持たれるのは、まあある事だろうと思っていた。しかしこの教師は喜んで受け取ってくれると思ったのか、それから3日ほどプレゼント合戦が続くと、校長に叱責された。
翌年からは一切受け取るのをやめた、結婚したのもあって、生徒からのアプローチも年々減った。
そしてこの学校での二度目の誕生日、昨年も断ったが、今年は個人ではなく、グループで、とでも思ってくれたようだ。
「えーいいじゃん! 邪魔にならなそうなの選んだよ!?」
中身はタオルだ、サッカー部の顧問をしている支倉に使ってもらおうと思ってのことだ。
「ごめん、ごめん。例外なく断るって決めてるから」
それは本当だ、教え子に特別もなにもない。
「ええーっ、マジで!? これどうすんの!?」
その会話は、結依にも聞こえた。
(例外なく──)
支倉の言葉が耳に残った。
*
結依は今日も職員室のドアの前に立つ。
小さな深呼吸をして、不自然に膨らんだブレザーのポケットを確認した。
朝方見た光景を思い出す、後輩の女生徒達が差し出すプレゼントを、支倉は「例外なく受け取らない」と言っていた……。
(受け取ってくれなくてもいい……折角、先生の為に作った)
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