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「──先生」
呼んで、説明する支倉を遮った。
「ん?」
支倉は嫌な顔ひとつしない。
「これ、もらっていただけますか?」
支倉の机に、ポケットから取り出した物を置いた。
小さなシンプルな透明の袋に入れられた、数個の丸いクッキーだった。
もし家に持ち帰っても、箱に詰められていたお菓子の一つだとでも思ってもらえる様に、袋の口もビニタイで止めた。
支倉はそれを数瞬見つめた。
「──誕生日プレゼントのお返しは要らないって言ったよね?」
言われて結依は小さくなった。
言われたのは覚えている、でも結依も汁粉をもらったのだ、その礼はしたかった。
そして今朝見た光景も覚えている、支倉は生徒から物は受け取らないと言っていた。
「でも……」
自分でも聞こえないほど、小さな声で言った。
「ごめんなさい……いつも、お世話になってるし……」
顔を見なくても、泣きそうだと判った。
いつも支倉に群がる女子とは違う、とても控えめで繊細な結依が、どれ程の勇気を持っての行動かなど、想像に難くない。
それをつき返せる程、支倉は鈍くはないし、それ以上に──。
黙ってビニタイを外していた。
「え……」
結依はその手元を見つめた。
金色のビニタイを脇に置き、中からスノーボールクッキーを取り出す。それは支倉の口に消えた。
「先生……」
「ん、おいし。田浦の手作りか?」
支倉は声を抑えて言った、職員室には人がいる。
「は、い……」
何日も前から練習がてら作ってきた、その中の選りすぐりの上手にできたものを数個だけ、その袋に入れた。
「上手だな。俺が甘いもの好きだってバレたか。美味しいな、止まらないぞ」
すぐに二つ目も口に放り込んだ、三つ目も取り出す。
「田浦も食べるか?」
そう言って結依の口元に差し出した。
散々食べた、家にもまだある。
それでもクッキーを持つ支倉の笑顔から目が離せなくて。
結依は口を開いた、そこへ支倉はクッキーを差し込む。
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