565人が本棚に入れています
本棚に追加
丸いクッキーは不安定だ、指先で押し込むと、支倉の指先が微かに結依の唇に触れた。
結依はびくんと僅かに背をそらせた。
支倉の腕もぴくりと震え、一瞬動きを止める。だがにこりと笑って手を戻し、すぐに次のクッキーを取り出した。
「美味しいだろ? ああ、作ったのは田浦か」
結依は口を手で覆って頷いた、噛み慣れたサクサクと言う感触はそのままだが、甘さなど全く感じない。
触れた支倉の指先を見ていた。取り出したクッキーを躊躇なく自身の口に放り込む、指先に着いた粉砂糖を、舌先が舐め取った。
「……!」
結依は声にならない悲鳴を上げた。
「ん? 何?」
支倉は更にその指先を吸いながら聞いてくる。
「……い、いえ……」
結依は俯いた、顔だけでなく耳まで熱い。
(間接……キスだ……)
支倉の指先は確かに自分の唇に触れたのだ、一瞬でも触れたのは間違いない。
それを、支倉は舐めた上に、吸い上げた。結依の唇にそうされたような気がして恥ずかしさが込み上げる。
体に発生する熱を抑えるのに精一杯だった、手で隠した下で、結依は支倉が触れたクッキーの感触を味わい、支倉が触れた唇に、そっと舌を這わせた。
(先生……!)
叫びたい気持ちを必死に抑える。
支倉は最後の一つも口に放り込んだ。
「ありがとう、美味しかった」
笑顔で礼を述べて、空袋はゴミ箱に放り込む。
「いえ……嬉しいです、喜んでもらえて……」
両手で口を覆ったまま言う結依を、支倉は見つめていた。
「こちらこそ……デザートにありつけてラッキーだったよ」
例外なく、のつもりだったのに。
結依のプレゼントだけは返せなかった、返せと言われても返したくなかった。返さなくて済むよう、今すぐ食べてしまおうと思ったのだが……。
まだ甘い指先を、再度舐めた。
(──って、童貞かよ)
結依の唇に触れた指先だった。故意に触れた訳ではないが、触れた事に変わりない。
結依の唇の感触が残るその指にむしゃぶりつきたい衝動は抑えて。
「──じゃあ、始めるか」
支倉が言うと、
「はい」
結依は小さな声で答えた。
まだ唇が、ひどく甘い熱を持っていた。
最初のコメントを投稿しよう!