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「でも、全部払ってもらってますし! 親にお金ももらいました!」 「いいよ、それはお小遣いにしな。ああ、全部出してもらったなんて言うなよ?」 「言いません……!」 頬を赤くして言う結依の手を、支倉は握ったまま会計に向かった。 そして半ば腕を組んだまま店を出る。 出入口に向かって歩き出した、本当に帰るのだと結依は覚悟した。 「お土産は?」 「──要りません」 「おトイレは?」 「大丈夫です」 「じゃあ……」 帰ろう、と言いかけた時、結依の手に力が入った。 支倉は黙ってその手を握り返し歩き出す。 シャトルバスはまだ混んでいない、待つことなく乗れ、一番後ろから二番目の席に座れた。 他に数組の客がいたが、まばらに座ったまま走り出す。 結依は車窓も見ずに俯いたままだった。 手はもう離れていたけれど、互いの二の腕は触れ合っていた、僅かに感じる温かさが心地よかった。 * 一時間ほどで横浜駅に着く。 バスを降りた結依は腕時計を確認した、まだ八時台だ。 「あの」 捨て身の提案をする。 「もう少し、一緒にいたいです」 結依の潤んだ瞳に見上げられ、支倉は戸惑う。 (断れ、もう地元だ、誰かに会うかも知れない、会ったらなんて言い逃れるつもりだ……) 結依から視線を外して小さく息を吸った、しかし出た言葉は全く違うものだった。 「──じゃあ……ひと駅、歩こうか」 言うと結依の顔が、ぱあっと明るくなった。 そんな表情に支倉は年甲斐もなく心が踊り出す。 結依は京浜東北線の磯子が利用駅だ。ひと駅歩くとなると、桜木町まで行く事になる。 デパートの一階にあるバス乗り場から出て、国道一号線沿いの歩道を歩き、高島町の大きな歩道橋を上がる。 結依にも見覚えのある景色が見えてきた、目の前に京浜東北線の線路があった。 遠くに目的地の桜木町駅も見えてくる。
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