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「──蓮くん……」
呼ぶと少し支倉の体が離れる、もうお終いか、と結依が思ったのも束の間、蓮の体は再び近付いた、正確には顔が。
「蓮──」
呼んだ時には唇は重なっていた、今度は容易く離れなかった。
初めてのキスに結依は戸惑い、支倉の胸を手の平で押し返そうとしていた。
だが支倉の唇は離れない、それどころか僅かに開いた歯列の隙間をこじ開け舌が侵入してくる。
結依の指が蓮のジャケットに食い込んだ、震える指が熱を帯びる。
一瞬離れて、結依が息継ぎをした瞬間また塞がれる。
もがき離れようとする結依を、支倉は力を込めて抱き寄せた。
音を立てて唇が離れた時には、結依は上気した顔で、今にも膝から崩れそうだった、合ったその瞳は零れそうな程に潤んでいる。
「先生……」
掠れた声で呼ぶ結依を、支倉は抱き締めた。
「──ごめん」
耳元で囁いた。
「ごめん、ごめん──」
「謝らないで下さい、私、嬉しいです」
結依は素直に気持ちを伝えた。
「ごめん……ごめんな」
支倉は腕に力を込めて謝る。
「先生……蓮くん、私、本当に嬉しいですから」
支倉を抱き締め返して言う。
「ごめん……ごめん……」
「どうして謝るんですか?」
「本当に……ごめん……」
「私、怒ってません、本当に嬉しいんです、先生にキスしてもらえるなんて、一生の思い出です」
「結依……」
支倉は結依を顔を見ることができなかった、代わりにしっかりと抱き締める。
「ごめん……」
繰り返される言葉に、結依は吹き出した。場違いの反応にさすがに支倉の腕が緩む。
「結依?」
「前にも似たような事があったなあ、と思って。あの時は私が一所懸命謝ってました、でも蓮くんが怒ってないって言ってくれて。あの時の蓮くんの気持ちが少し理解できました」
結依から少しだけ体を離して、支倉は視線を合わせる。少し大人びた瞳が、そこにはあった。
「だから蓮くんも私の気持ちを理解してください、あの時蓮くんが怒っていないって言ってくれた気持ちと一緒ですから」
揺れる瞳で見つめ合った、もう後戻りはできないのだと判る。
今度は結依の方から近付いた、支倉の肩に手をかけ精一杯背伸びする。
唇が触れ合った、軽く啄んで離れ、また触れる。
抱き締めたのは支倉からだ、再度深いキスを交わした。
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