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バランスを失ったイーゼルはキャンバスを落とそうとした、その角度では絵が描かれた面から落ちる。油絵の絵の具はそう簡単には乾かない。描いたばかりの花はどうなるだろう。
結依は絵を庇おうと手を伸ばした、今度は結依がバランスを崩す、その先にあったのは絵の具や洗い壺のある台だ、そのまま倒れればどうなるだろうか?
支倉は咄嗟に結依に腕を伸ばしていた、小さな肩を、細い腰を抱き締め、倒れるのを防いだ。
「よか……」
絵を助けた事に安堵したのもつかの間、すぐに支倉に抱き締められている状況に気付き、結依は全身を硬くした。
「全く無茶をす……」
お小言の一つもと思い支倉は口を開いたが、すぐに結依の様子に気づいた、自分が何をしでかしたかを。
上半身は密着していた、小柄な結依の体はすっぽり支倉の体に収まり、支倉は強く結依の体を抱き締めていた。
息が止まった、時も止まった気がした。
意図したつもりはないが、結依を抱く腕に力が入って、はっとする。
「──少ししたら戻る、それまでに片付けを終えなさい」
冷静に小さな声で指令を出してゆっくり体を離した、結依はキャンバスを握り締めたまま小さく頷いた。
結依の体がきちんとバランスを保って立っている事を確認してから手を離す、そこからは早かった、踵を返して早足で教室を出て後ろ手にドアを閉める。
ドアの脇の壁に背を付けて立ち竦み、思わず両手を見下ろした。まだ結依の感触が残っていた。細く小さな体の包む薄く柔らかな筋肉の感触が。
妻だって女らしさがない訳ではない、大学のミスコンで準優勝しただけの事はあるのか年の割には綺麗にしている方だとは思う。でもさすがに三十路に近づき肌の張りは弱くなり、子供を産んだせいもあるのか肉付きは良くなった。
それが悪いとは言わないしマイナスに感じてもいないが、それでも若さに満ち溢れた肢体に触れれば比べざるを得ない。
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