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「さみしい」  と、足元のねこが言った。  長毛種の黒ねこで、名前はねこきち。オス。気がつけば、長いつきあいになる。  てしてしと爪でスリッパを攻撃し、とうとう脱がされた。それに飛びついて、がじがじとかじっている。 「ぼくがいるから寂しくないでしょ」 「七生に会いたい」  ねこきちは、ねこにしては行動力があるのでよくぶらりと一人旅に出る。飼い主ことぼくとしては、心配になるので勝手に出て行かないでほしいが、最近はアップルウォッチを身に着けさせたので、とりあえず連絡は取れるようになった。ツイッターでたまたま見かけた、肉球でもiPhoneが反応する、という投稿のおかげだ。彼も道に迷わなくなったと喜んでいる。 「さみしいなら、今日は一緒に寝るかい?」 「それはだいじょうぶ」  ぼくのほうなど見ないままスリッパをかじり続けるねこを、ひょいっと抱き上げる。 「なんだ! なんだ! だっこしていいなんて言ってないぞ!」 「遠慮しないで」  そうしてベッドに連れて行った。     
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