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一ヶ月前は四十八円であったが、連日のように二、三円づつ値上がりして、今日の終値は九十三円であった。他のパルプ株も少しづつ動意がみえるが、五十円から七十円くらいの揉みあいで、雪国だけが断トツの動きをしていた。翌朝、凜子は六時になるのを待ちかねて、風丘の自宅に電話をかけた。風丘はすでに起きていた。挨拶ももどかしげに、
「雪国パルプでしょう?」
と叫ぶように言うと、
「よく見つけたね」
と、彼は落ち着いて答えた。
「これが本命と見ていいだろう。ただし、同業の出遅れ株や、紙の会社には手を出さない方がいいと思う」
「わかりました、雪国パルプ一本で行ってみます」
「今日はこれから、雪パルの北海道本社へ行くことにしたんだが、我々がどこまで踏みこめるか、見当がつかないんだ」
「何かわかったら、教えてくださいね」
「いいニュースがあったら、電話するよ」
凜子は出社するなり、全顧客に雪国パルプをすすめる電話をかけつづけた。株価は百円を目の前にして揉みあっていた。
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