5.ファンドマネジャー

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「その点君は素直だし、公私の区別はつくし、欲張らないから、ファンドマネジャーとして適格だと思う」 「風丘さんは私を買い被っていらっしゃいます。私は意地をはることもありますし、けっこう欲ばりな人間です」 「それがあるから人間らしいんだ。仏様のようじゃ、私なんかそばにも寄れなくなってしまう。ファンドの運営方法はよく考えてから相談することにして、何はともあれ、第五証券と相談することだ。会社がOKしてくれたら、お客さんに手紙を出して、一口から受けつける旨を書いてお願いすることだ」 「一ヶ月くらい考えてみます」 「そうだな、ニューヨークのウオール街へ行って、ファンドの様子を探ってくるといい。有力なファンドマネジャーを何人か食事に招待して、コツを聞きだすことだ」 「英語は使うチャンスがないので、忘れかけてしまっていますが」 「ワシントンの日本大使館へ行って、有能な通訳を紹介してもらえばいい」 三週間後、凜子はワシントンに飛びたった。そして、二週間にわたってニューヨークのウオール街を見学して戻ってきた。 「風丘さんのおっしゃる通り、アメリカはファンドに関しては、ずいぶん進んでいました。小さなファンドも沢山ありましたし、大きなファンドのマネジャーは、日本では考えられないほどの高給をとっていました」 風丘はビールの手を休めて、凜子の話に聞き入った。 「それで、君はやる気になったのかな?」 「まだわかりません。ただ、お客さんに買いを熱心に勧めておいて、すぐに失敗したから投げてください、とは言いにくくて、ついつい投げ場を失ってしまうことが、今までの私にはよくあったのですが、ファンドにすればそれがなくなるし、電話の応対に追われて、ものを考える時間がなくなってしまうことも防げる、と思いました」 「相場というものは、一瞬のチャンスをどう生かすかが勝負なのだが、お客さんに買いをすすめているうちに、自己暗示にかかってしまって上がるものとばかり思い込む、ということは良くあることだね」 「十人中八、九人が上がると思い、上がってほしいと願うような時が売り時であることって、かなり多いことに気がつきました」 「そこに気がついたのは、すごいことだな」
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