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それから二週間たっても、凜子は動かなかった。三丁目老人も店頭に現れることはなかった。さらに二週間たった日の夕方、凜子は株式部長と外務部長をまじえて、応接室で懇談していた。
「ファンドねえ。今まで例がないんで、社長も君に任せるの一点張りで、何か問題がおきたら、私と外務部長に全部の責任を負わせる気なんだよ。私もねえ、もう六十五才だから新しいことには頭がまわらないんだよ。どうかね、山際君の意見は?」
指名されて、外務部長はすわりなおした。
「ファンドということは、客の注文をすべて任せてもらうことですから責任が大きいわけで、大損がでた場合は島君に言うより、会社に責任をとらせようという客が、出てくることを心配しております」
山際部長は、控えめな言い方をしたが、ファンドに反対であることは、常務と同じであった。凜子はそれをきくと、軽く頭をさげてから言った。
「御心配をおかけして申しわけありません。それでは、ほかの会社と交渉してもいいでしょうか?」
「えっ、君は、ファンドを受け入れる会社があったら、そっちへ移る気かね?」
常務は目をむいて、大きな声を出した。
「そこまでは決めてはいませんけど、ファンドをやる事だけは自分の中で決めております。一ヶ月以上真剣に考えた結果、ファンドを作ることがお客様のためになることだ、という結論に達しましたので」
「わかった、もう一度役員会に諮ってみるから、よその会社との交渉は、もう一週間待ってくれないか」
「役員会は、いつ開かれるのでしょうか?」
「来週の月曜日だ」
「そうですか、では、それまでお待ちします」
凜子はしずかに立ち上がった。唇を真一文字にむすんで、ていねいに頭をさげると、二人の視線を背にうけて応接室をでた。
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