6.仕手相場

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「お蔭さまで、無事にスタートできました。すべて風丘さんのお蔭です」 「いやあ、私の力じゃない。一番の功労者は三丁目さんだよ。今日はお見えになったの?」 「いえ、お見えになりませんでした。でも、契約書にはサインしていただいております」 「それはよかった」 「三丁目さんは、なぜ私にこんなに良くして下さるのでしょうか?」 「兜町の謎の一つだが、あの人は、人間の本質を見抜く天才なのかもしれないな。凜子ちゃんに出会うまでは、この兜町に信用できる人間が見つからなかったのだろう」 「あの人は、お金に対する執着心が薄いような気がします。人間というより、仙人みたいな人ですね」 「その仙人に見込まれたのだから、君も只者じゃないということだ。なにしろ、日本でファンドを作った最初の人だから」 「そんなにおだてないでください。自分の力じゃ何もできないのですから、いくら馬鹿でも、うぬぼれる気にもなりません」 「つぎに何をやるかで君の真価がきまるのだが、今、この街の人々はファンドの行方を、息をつめて見つめているんだ。月曜日は、業界紙がいっせいに書きたてるだろう。若い女性のファンドマネジャー誕生っていうんで、全国的に名がでるんだ」 「業界紙は全国版なのですか?」 「うん、大した部数じゃないが、株マニアは北海道から沖縄まで、毎日読んでいる」 「それは知りませんでした」 「だから、ファンドの申し込みが沢山くると思う。地方の会員ができたら、君の新聞をつくっておくる必要がでてくるな」 「そうですね、今日お集まりいただいた方々も、私が今なにを考えているのかを知りたいでしょうから、明日からさっそく準備します」 業界紙各社は、小さくではあるが、「島ファンド誕生」のニュースをのせた。凜子は身の引きしまる思いだった。しかし、次の銘柄がみつからないままに約一ヶ月が過ぎた。ある日、三丁目老人が例によってソファにすわって弁当をとりだし、凜子が味噌汁をはこんだ時のことであった。 「凜子ちゃん、東洋火薬の値動きをみているかね?」 と、話しかけた。 「はい、微妙な動きだと思ってみています」
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