1.女相場師

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遠慮がちに話しかける彼女を見ておどろく様子もなく、となりの座席を勧めた。 「私、営業マンになりたいんですが、どうしたらいいでしょうか?」 風丘は顔をあげて、凛子の顔をじっと見つめて言った。 「あ、君ならやれると思うけど、会社がそれを許すかな・・・。ものはためし、支店長に相談してみたらどうかな。今まで女性の営業マンは例がないから、おそらく無理だと思うけど。それで、断られたらどうする?」 「系列会社でもむりでしょうか?」 「兜町には中小証券は何十社もあるけど、女性の営業マンを採用している会社は、一軒もないと思うけど」 「やはり無理ですか?」 「どうしてもやりたければ、中小証券でコミッションセールスをやる手はあるけど、これは給料もボーナスも退職金もない代わりに、売り上げの四十パーセントをもらえる仕組みになっているんだ。しかし、お父さんは、あ、亡くなったんだったね、お母さんは納得するだろうか?」 「母を説得するのは、骨が折れると思うんですが」 「結婚適齢期だからな、まあしかし、やりたいことはやるべきだと思うよ」 「わかりました、よく考えてみます。お忙しいところを有難うございました」 二週間後、凛子は支店長室によばれた。閑散とした相場がつづく証券会社の店頭は、相場を映してか、客は二、三人しかおらず、営業マンは全員出はらって、営業代理の畠山がひとり、黒板を退屈そうに眺めていた。凛子は同僚の営業補助の洋子とひかるにそっと声をかけると、三階の支店長室に行くべく、階段をしずかに上って行った。支店長の植山は凜子をみとめると、太い黒縁のメガネ越しに、するどい視線をむけた。 「あ、島君か、まあ座りたまえ」 と云って、応接セットを指し示して、自らも席をたった。ソファに腰を下ろすなり、植山は 「君の営業マン志望の気持ちは、変わらないかね?」 と、切りだした。 「はい、変わりません」 凜子は植山の目を正面からみつめて、はっきりした声で答えた。 「うむ、じつは、総務部長の酒井さんにたのんで、役員会に提案してもらったのだが、残念ながら前例がないものだから、否決されてしまったんだよ」 「そうですか」
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