6.仕手相場

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株式部長の、いかにも気の小さそうな白い細面をみて、会社中が自分の行動に神経を尖らせていることに思いをはせた。翌日は、四百六十五円変わらずで寄りついた後、四百六十円まで下げたが、引け際にじりじりと上げ始めて四百七十円で前場をおえた。後場は、寄りつきに成り行き買いが入ってにぎわったが、同値の四百七十円ではじまった。揉みあった後、二時半を回るとふたたび賑わいはじめて、四百七十五円の高値をつけた。その時、異変がおこった。第一証券から五十万株の成り行き売りがでた。それを見て、中小証券数社から日計らいの投げものがつづいて、四百六十円を切って四百五十六円まで下げた。凜子は売りの青伝票をもって、株式部の前に立ち尽くしていた。その時、課長がひくいが、よく通る声で叫んだ。 「東洋火薬、大引けは四百六十円カイ六十一円ヤリ」 それをきくと、凜子はめずらしく大声で叫んだ。 「大引け成り行きで、十万株売ってください!」 買い値四百六十円と同値で投げることができた。
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