8.シマリンファンド

4/5

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/56ページ
「凜子ちゃん、大当たりだね、もう立派な相場師だよ」 「いえ、そんな、猪熊さんまで、やめてください」 「ファンドの入会希望者が多くて、大変じゃないの?」 「あまり大きく張る度胸がないもので、皆さんお断りしているんです」 「えっ、そんな勿体ないことを、お金は預かっておけばいいじゃないか」 「額が多くなると、利益が薄まってしまいますから」 「その場合は、株数を増やせばいいことじゃないの」 「ええ、でも東洋火薬の場合でよくわかったのですが、百万株くらいがいいところで、それ以上になると、市場の動向を左右してしまう恐れがありますから」 「市場動向を左右するってか、おれなんか、市場動向を左右してみたい方でね、ハッハッハッ・・・。ところで、風丘と今夜一杯やる約束をしたんだけど、よかったら一緒にどう?」 「ありがとうございます、何時に?」 「五時半にうちの事務所集合で、どうかな?」 久しぶりに風丘に会いたかったので、凜子は二つ返事で乗った。猪熊が案内してくれたのは、赤坂の大きなレストランの一室だった。尊敬する二人の先輩にかこまれて、凜子は久しぶりに酔った。頃合を見て、猪熊が買占めの話をもちだした。関東船舶の株を買い集める話が、大手船会社から猪熊経済に持ちこまれた、と言う。 「云うまでもないことだが、この話は極秘だよ。凜子ちゃんの所で買うと、すわっ、シマリンファンドの買いか、と提灯がつくから第五証券には注文を出さないけど、ファンドの買いは、そんな訳で少し後にしてもらいたいんだ。そうだな、五十一%集める予定なので、三十パーセント近く集まったら、ゴーサインを出すから、それまで待ってもらいたいんだ」 「その大手船舶が、五十一パーセント買い集めることを、君が一手に任されたのか?」 風丘が静かに云った。 「うちにくれる注文は、三分の一で、他に二社使うっていう話だ」 「以前から、その船会社とは知り合いなのか?」 「いや、つき合いは先月からだ。向こうから接近してきたんだ」 「その人は船会社の役員なのかね?」 「いや、船会社の下請けの下請け、つまり、孫請けにあたる塗装会社の社長なんだ」 「信用のできる人かね?」 「その大手船舶の、専務の従兄弟なんだそうだ」 「ふーむ」 風丘は腕をくんで考え込んだ。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加