10.大日本住宅

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10.大日本住宅

昭和四十七年、凜子は二十七歳の春を迎えていた。昭和四十年の証券不況をのりこえて、兜町はかなりの活況を呈していた。 「凜子ちゃんは、住宅産業をどう見ているのかな?」 風丘が夕食を共にしながら、話しかけた。 「家電が一巡して、次はマイカーで、その次がマイホームって、言われていますね」 「もうそろそろ、住宅株が登場する番だ、とぼくは思うんだ、この街は気が早いからね」 「私は、まだマイカーブームにもなっていない、と思っていました」 「まだカラーテレビも入っていない家庭も多いのが現実で、マイカーは夢だという人たちの方が大半なのだが、株は夢を買うという一面ももっている。だから、家電も自動車もまだ上がるだろうが、それと並行して住宅株もあがるだろう」 「どの住宅株がいいでしょうか?」 「ぼくは大阪の大日本住宅に、注目しているのだが」 「二桁だった株が、百五十円台に上がってきたことは知っていましたが、資本金がまだ五十億に満たない小型株で、まだ無配なのだ、という程度しか知らないのです」 「ぼくも一ヶ月前に大阪に仕事で行ったついでに、大日本住宅の本社に寄ってみたんだが、これが東京市場の一部上場企業か、と驚くほどのオンボロビルでね。ところが親父が引退して次男が引きついだとたんに、営業成績が伸び始めたんだそうだ」 「どうやって成績を伸ばしたのですか?」 「親父さんの代では、注文が入るとコツコツと家を建てるだけだったそうだが、息子は建売住宅と称して、土地を買ってそこに同じような家を何十軒も建てて、土地つきで売るという商売を始めたんだ」 「会社で規格品を作っておいて、それを大量に売るという商法なのですね?」 「それだけじゃなくて、次はマンションを建てて売る、という発展ぶりなんだそうだ」 「それは有望ですね」 「資本金が小さいから、発行株数が少ない。それに大阪に地盤をおいているので、関東以北の人はあまり馴染みがないし、関西以西の人たちは本社ビルがボロなので、馬鹿にしてあまり手を出さないのだろう」 「身なりに構わずに、額に汗して働くわけですね。二代目の世襲にしては、いい息子ができたものですね。さっそく買いに入ります」
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