10.大日本住宅

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この後、一、二週間は玉整理をして、百七、八十円位まで押し目をつくるに違いない、と凜子は考えたからであった。株価は寄り後、二百五円の高値をつけた後、十時過ぎまで揉みあって安値百八十九円までつけた。ところが、十時半を回ると再びもり返して、二百円を奪還すると、前引けは二百五円と高値で引けた。 「このエネルギーはものすごいね。近頃、こんなすごい相場はみたことがないな。前場だけで三千万株をこす大商いだから、普通はもたれ玉で足取りが重くなるものだが、それをものともせずに高値引けだからね」 いつも冷静な株式部長が興奮した面もちで、市場から戻ってきた市場部員たちと話し合っているのを聞いて、凜子の胸がゆれた。今までの常識は捨てなければいけないことを、痛いほど感じさせられた。土地を買って上物ごと売りつける商法は、今全国的に土地の値上がりが始まっている時期だけに、効率のよい商売だが、土地をより有効に活用するために、マンションを建てて販売する商売はより儲かるだろう。現在は無配だが、近々配当するようになるだろう。増資もしなくてはならなくなるし、優秀な社員と技術を導入して、近い将来優良企業になるにちがいない。 外見がボロだといって、カラ売りを仕掛ける向きが多いうちは、相場が延々とつづく可能性すらある。しかし、本社社屋を美々しく建て替えたり、社長が外国製の高級車を乗り回す時がきたら、相場は終わるだろう。凜子は、週末は大阪へ行こうと決心した。できれば社長に会って、その人柄も知りたい。彼女の名刺は、「第五証券第二営業部 島凜子」としか書いてないので、社長が会ってくれるだろうか。 二ューヨークで会った人たちは、ファンドマネジャーという名刺をもっていた。日本ではあまり聞かない名前なので、気恥ずかしいが、勇気をふるってファンドマネジャーを名乗ることにしよう。ファンドマネジャーという響きは、百億円以上の巨大なファンドを想像させる。わずか数億円の少額と知ったら、笑いものにされる心配すらある。  しかし、発展途上の新興企業とおなじで、大日本住宅と似ていないこともない。堂々と会いにゆけば良いではないか、と凜子は自分に言いきかせた。土曜日しか行く機会はないが、午後では、社長以下社員がみな居なくなってしまう。土曜の半ドンをすっぽかして、早朝の新幹線に乗ることにした。
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