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大日本住宅の本社に着いたのは、午前十時ころであった。なるほどオンボロ社屋であった。受付で名刺をだして、社長に会いたいと申しでると、意外にもあっさりと社長室に招き入れられた。三十二才だという太田垣社長は、若いファンドマネジャーを快く受けいれてくれた。現場をとび回っているのであろう、ほどよく日焼けした顔に微笑をうかべて、凜子を迎えてくれた。凜子は応接セットに腰を下ろすと、太田垣の目をまっすぐに見つめて切り出した。
「御社の未来図を、簡単に教えていただきたいのです」
「御覧の通り、今は貧乏していますが、いずれ配当のできる大企業に成長したいものだ、と願っています」
「私共も期待しています。マンション事業はこれからの花形産業になると思いますが、耐用年数は何十年位とお考えですか?」
「地震につよい最新の工法をとり入れていますが、それでも四十年か、と思います」
「四十年たったら、住民はどうなるのでしょうか?」
「積み立てをしてもらって、立て直しができるように考えています」
「会社が責任をもつのですか?」
「自治会の活動に期待しています」
「積み立てのできない人は、どうなりますか?」
「売却して、転居してもらうしか方法はないでしょう」
「中古物件を買う人、たとえば十年後に入る人は、過去十年分の積立金を、用意する必要があるのですか?」
「これはむずかしい質問ですね。そうできる人も、できない人もあるでしょう。脱落者が出ることは覚悟しています。建て替えの時は五階建てを七階建てにするようなことで、新規入居者を募れば、建築資金の埋め合わせができる、と考えています」
「新規入居者からの利益を、建設資金に回せるのですね。そこのところに気がつきませんでした。これで、マンション事業に対する不安が解消しました。ありがとうございました。来週から、安心して御社の株を購入できます」
凜子が帰ろうとすると、太田垣も席を立って声をかけた。
「これからどちらへ?」
「大阪の街を見て帰ります」
「それじゃ、大阪駅までお送りしましょう。会社と同じボロ車ですが、よろしかったら」
といって、太田垣は先にたって歩きだした。
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