11.兜町よ、さらば

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三丁目金左衛門氏の基金は、最初は一億円であったが、現在は、十三億六千万円にも増えてしまっている。凜子は当惑してしまった。まったくの赤の他人である自分が、これほどの大金を受け取る理由はない。困った凜子は、母親には相談せずに、風丘にだけ相談した。二人で得た結論は、盲導犬協会への寄付であった。それに伴って、ファンド会員に解散宣言をした。 「皆様のお蔭で、たのしい人生を送ることができました、ありがとうございました。私は、意識不明でいた三週間の間に、天国を垣間見ることができました。神様は目で見ることはできませんでしたが、いつも私の傍にいてくれることを肌で感じました。天国では、自分が欲しいと思うものは、何でもすぐ手に入り、飲食はしてもしなくてもよく、行きたい所には瞬時に行けるのです。いずれ天国へ行かれることが分かったので、この世でお金を追いまわす生活は、もうやめにしました。 私、結婚して北海道にうつり住みます。北海道では、夫婦で農業をやる傍ら、ボランティアをやって暮らす予定です。もう、証券業に戻ることはないと思います。札幌からさほど遠くない所ですから、北海道旅行の際はお立ち寄りください。新鮮な牛乳とジャガイモとトウモロコシをご馳走します」 了
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