運命の1回戦

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その日は朝から晴天で絶好のお祭り日和に街は大いに賑わっていた。 一週間という長い開催期間の祭りの初日という事もあり、メインである最終日よりは観光客も少ないと聞いていたのだが、そんな事は感じさせないほどの観客の数にナダールは驚きを隠せなかった。 試合の会場は街の郊外、城壁の外になるのだが、家族が参加している者達も多いのだろう、観客達は場所取りに余念がなく、一番最初の試合にも関わらずその時間にはもうずいぶん人が集まっていた。 「これは本当に凄いですねぇ」 どこからこれ程の人達が湧いてきたのかと驚きを隠せないナダールは顔を上げて周りを見回した。 「ナダールさ~ん!応援に来ましたよっ」 「あぁ、ありがとうキース君」 大きく手を振って駆け寄って来たキースに笑みを見せる。 ナダールは試合会場の草地に座り込んで作業をしていたのだが、なにせ体躯が大きいのでキースにも自分がどこにいるのかすぐに分かったのだろう。 「ナダールさん、そんな所に座り込んで何してるんですか?」 「ちょっとした悪戯です、ナイショですよ」 そう言ってナダールは口の前に人差し指を立てた。 その草地はまるで手入れもされていない荒れ放題の土地で、草は伸び放題、その丈はナダールの膝ほどまで伸びている。 「え?ちょっとコレいいんですか?反則とかになりません?」 「確認はとりましたよ。次の試合までに現状復帰させる事が条件ですが、OK貰ってます」 ナダールがやっていたのは伸び放題の草を結んだ罠作りだった。 「私一番最初でラッキーだったかもしれませんね、まだ何も踏み荒らされたりもしていないので、とても作りやすかったです」 「え~そんなの有りなんて聞いてないよ」 「しーっ、駄目ですよ、他の人に気付かれてしまう。それにこれはちゃんとルールブックにも書いてありましたよ『そこにあるものは使用可』ってね。私はここに在る物しか使ってないですから反則ではありません」 そう言って笑うとキースは「そんなぁ…」と頭を抱えた。
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