運命の1回戦

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「あいつ、ちゃんと気付いたな」 ブラックはそう言って笑った。 この一回戦目はサバイバル戦だ、何もない場所でそこに在る物をいかに利用し勝ち残るか、それに気付くか気付かないかで戦い方が大きく変わる。 早々にルールを公表していたのもその為で、気付いている者はナダール同様何かしらの下準備をしているはずだ。 「まぁ、そのくらい機転が利かないと人の上には立てませんからね」 「お前はそういうの苦手だろ?」 「でも、ちゃんと勝ち残りました」 お前のは半分反則みたいなもんじゃないかとブラックは苦笑う。 彼の勝ち方はある意味とても特殊だった。本人は酷く真面目にやっているのだが、彼に甘い回りの人間がお膳立てをするように彼に勝利を与えたのだ。 それを一概に反則とは言えず、そのまま勝利として勝ち上がったが、ああいう試合結果は後にも先にも彼にしか許されないものだった。 人目を避けるように立ち、2人は試合を覗き見る。 ブラックの姿は完全に庶民に同化していて顔を隠しもしていないが、もう一人の男は顔を隠すようにフードを深く被り、周りを警戒するように気を張り巡らせていた。 「それで陛下…」 「ブラック!」 「失礼しました、ブラック様。私を呼び出したのは一体どのようなご用件で?」 「本当はお前だって参加しないといけないんだからな」 「いえ、私はもうこの地に戻るつもりはありませんので…」 「言われんでも分かってる、それでも最後にちゃんと幕くらい引いていっても罰は当たらんだろう、なぁ…クロード」 フードを目深に被った男、それはこの国ファルスの第一騎士団長クロード・マイラーその人だった。 ここイリヤを飛び出してから行方知れずと巷では騒がれているが、ブラックはちゃんとその所在を把握しており、今回この武闘会に彼を呼び付けたのだ。 「私に何をしろと?」 「あの男、勝たせてこい」 「ナダールさんですか?エディがいい顔しないでしょうね」 「知った事か、そもそもお前を連れてっちまったあいつのせいでもあるんだから、文句は聞かん」 言ってブラックは腕を組み動き出した試合を見やった。 「この試合、彼に勝算は?」 「8割方勝つだろう。負けたらそれまでの男だという事だ、それならそれで仕方がないが、どのみち二回戦勝ち上がるだろうから、お前はその手伝いだ」
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