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「これ計算めちゃくちゃじゃねぇか、こんなんじゃ風車はできないぞ」
「あぁ、お前は分かるんだな。どこがおかしい?」
「こことここ、あとこっちも」
指差した場所に丸くチェックを入れて、ブラックはその書類を脇によけ、新たな図面を引っ張り出してくる。
「これは分かるか?」
「ん~?橋?強度足りなくね?こんなんじゃ少しの嵐でも流される、柱はもっと太くしないと…って、俺は仕事をしにきた訳じゃねぇ!!」
「なんだよ、適材適所やれる事はやってくれたっていいじゃねぇか…」
そう言ってブラックは手直にあった書類を幾つか纏めて「これいいぞぉ~」と声をあげると、どこに埋まっていたのか、ぬっと疲れ果てた顔をした人物がふらりとやってきて、その書類の束を抱えて何処かへ運んでいった。
なんだこれ…とその背を見送っていると、ブラックが手を休めてぐっと伸びをする。
「で、なんだっけ?」
「なんだっけじゃねぇ!俺はナダールの職務改善の抗議に来てるんだっ!」
「あぁ、そうだった、そうだった。いやぁ、悪いな。お前の旦那意外と使い勝手がいいもんだから、重宝させて貰ってる」
「ふ・ざ・け・ん・な!」
俺はまた拳でブラックの使用している机を殴った。
「まぁまぁ、そう怒るな。そんなに文句があるならお前も手伝って働いてもいいんだぞ?ん?」
「嫌だ!って言うかうちの子供達まだ小さいの知ってんだろ!俺まで家出ちまったら誰があいつ等の面倒見んだよ、ここはムソンとは違う、頼める人間だっていない」
「あ?なんだそんな事か?だったらここに連れて来ればいい、うちの家内がいつもする事がないとぼやいているからな、子守りくらい喜んで引き受けるぞ」
「え…いや、それは別にいい…」
「なんだ?やっぱりお前が働きたくないだけか?」
ブラックが首を傾げるのに、俺は少し言葉に詰まり「そういうわけじゃねぇよ」とぼそりと呟いた。
「働ける能力のある人間が家に籠って家事三昧ってのも俺は勿体ないと思うんだが?」
「や…別に家事嫌いじゃねぇし、子供可愛いし、それに…」
「それに?」
顔を覗きこまれて言葉に窮した。
「あいつが帰ってきた時にちゃんと出迎えてやりたいし…」
ぼそぼそとそう言葉を零した俺にブラックは一瞬固まり、その後盛大に吹出した。
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