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遠くで歓声が聞こえた。
「そろそろ行きましょうか」
揉み合っていた両者の脇をもう既に数人の大将がすり抜けて行っていた。
「何を今更、もう間に合う訳もなかろう」
男は肩を落とし、もう完全に戦意を失っている。
「そんなに簡単に諦めてどうするんですか、勝負はまだ最後まで分かりませんよ。一緒に行きましょうとは言いませんが、ここで諦めたらあなたを信じて付いて来た配下の方々が可哀相です」
「散々邪魔をしておいて何を言うか!不愉快だ!」
「例え途中でどんな妨害があろうと、任務は遂行するものです。諦めたらそこで何もかもすべて終わりですよ」
そんな事を言われても、すでに勝負は目に見えているのに一体何を言っているのかと男は不審顔だ。
「まだ勝負は終わっていません、諦めたのならあなたはそこで立ち尽くしていればいい、私は行きます」
言ってナダールは踵を返すのだが、なんだかその物言いに男は腹が立って仕方がなかった。
「あいつにだけは負けるものか!追うぞ!!」
男はそう言って兵を率いて駆け出した。
「せっかく戦意喪失してたのに、お前は馬鹿か!」
「だって、こんな所で諦めて欲しくなかったんですよぉ」
怒鳴るエディに苦笑で答えて、もの凄い勢いで追ってくる男からナダールは逃げる。
「おぉ、来た来た…って、お前、何引き連れて来てんだよ!」
「すみません、全員揃ってますか?!」
「当然、誰一人欠けてないぜ!」
カズイ達ムソンの民も当然合流済みで、親指を立てる。
「走って!もうすぐそこです!!」
背後から怒涛の勢いで追いかけて来る先ほどの男に驚いて、立ち尽くす少年達の手を引いてナダールは走った。
本来大将のみが到着すればいいその場所で、配下を引っ張って走って行くその姿は観客の興味を引いた。ただでさえ配下が先に到着して休憩していた事自体が前代未聞だったのだから当然だ。
「全く分からん男だな…」
先程までスタール達と話していた兵士はそう呟いて、彼等のゴールを見守っていた。
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