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結局ゴールした順位はナダール4位、追ってきた男が5位で彼は地団太を踏んで悔しがった。
「さぁ、封書を渡してもらおうか?」
手を差し出しそう促す兵士にナダールはハリーを呼んだ。
「ありがとうございます、助かりました。はい、どうぞ」
封書の確認役である兵士にその封書を手渡し、ようやく人心地ついてふぅと息を零す。
「なんだよ、本物お前が持ってたのか?」
キースの言葉にハリーはおどおどと頷く。実はハリーとスタールはその事を知っていたのだ。
ハリーは渡された時に、スタールは切り離された時にそれぞれ耳打ちされていた。
「絶対覆面の誰かだと思ったのに」
オレだって封書持ちたかったぁ~とキースは不貞腐れたように呟いた。
「キース君は強いですから、いざとなったらハリー君をちゃんと守ってくれると信じてハリー君に預けたのですよ」
にっこり笑ってそんな事を言うナダールに、それならば仕方がないかと頷かない訳にいかないキース。その傍らで「僕が一番弱いから…」とハリーはやはりおどおどとした姿を見せている。
「いいえ、あなたは良くも悪くも一番目立たないので、封書を守り切れると判断しただけですよ。大事な物はこっそり隠しておかないとね」
「ふむ、これは本物だな。お前達2位通過だ」
兵士に言われて、全員が「え?」と兵士の顔を見やった。
「一着二着の者達の封書は偽物にすり替えられていたからな、三着が1位、お前達は2位だ」
「そんな馬鹿な事あるか!」
スタールの怒声に喜びこそすれ、怒鳴られるなどと思っていなかった兵士はたじろぐ。
「何を怒っている?四着で2位通過など運が良いではないか!早くその封書、国王陛下に渡してこい」
「どういう事だ!?三着って誰だよ?」
封書のすり替えは完璧なはずだった、あの場に本物を持っていたのはナダールと五着で着いた男の2人だけだったはずなのだ。
「え?ちょっと待って、あいつ…」
そこでにこやかに笑い観客に手をふっていたのは、あの時の嫌味ったらしい貴族の男だった。
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