運命と疑惑

2/18
615人が本棚に入れています
本棚に追加
/497ページ
結局ゴールした順位はナダール4位、追ってきた男が5位で彼は地団太を踏んで悔しがった。 「さぁ、封書を渡してもらおうか?」 手を差し出しそう促す兵士にナダールはハリーを呼んだ。 「ありがとうございます、助かりました。はい、どうぞ」 封書の確認役である兵士にその封書を手渡し、ようやく人心地ついてふぅと息を零す。 「なんだよ、本物お前が持ってたのか?」 キースの言葉にハリーはおどおどと頷く。実はハリーとスタールはその事を知っていたのだ。 ハリーは渡された時に、スタールは切り離された時にそれぞれ耳打ちされていた。 「絶対覆面の誰かだと思ったのに」 オレだって封書持ちたかったぁ~とキースは不貞腐れたように呟いた。 「キース君は強いですから、いざとなったらハリー君をちゃんと守ってくれると信じてハリー君に預けたのですよ」 にっこり笑ってそんな事を言うナダールに、それならば仕方がないかと頷かない訳にいかないキース。その傍らで「僕が一番弱いから…」とハリーはやはりおどおどとした姿を見せている。 「いいえ、あなたは良くも悪くも一番目立たないので、封書を守り切れると判断しただけですよ。大事な物はこっそり隠しておかないとね」 「ふむ、これは本物だな。お前達2位通過だ」 兵士に言われて、全員が「え?」と兵士の顔を見やった。 「一着二着の者達の封書は偽物にすり替えられていたからな、三着が1位、お前達は2位だ」 「そんな馬鹿な事あるか!」 スタールの怒声に喜びこそすれ、怒鳴られるなどと思っていなかった兵士はたじろぐ。 「何を怒っている?四着で2位通過など運が良いではないか!早くその封書、国王陛下に渡してこい」 「どういう事だ!?三着って誰だよ?」 封書のすり替えは完璧なはずだった、あの場に本物を持っていたのはナダールと五着で着いた男の2人だけだったはずなのだ。 「え?ちょっと待って、あいつ…」 そこでにこやかに笑い観客に手をふっていたのは、あの時の嫌味ったらしい貴族の男だった。
/497ページ

最初のコメントを投稿しよう!