運命と疑惑

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ナダールが国王陛下の元に封書を届けに行くと、そこには勿論ブラックが居るはずだったのだが、何故かそこには見知った顔が鎮座していて一瞬目を疑った。 「え?なんで?」 そこに座って居たのはムソンの村長の息子、ルークの父であるリンだった。 リンはナダールに向けてこっそり「黙れ」と人差し指を立てる。 さすがのルークも「親父何やってんの?」と心の中で呟いており、カズイ・カズサ兄妹もブラックの言動は身に染みて分かっている「あの人またどこで何やってんだ…」と溜息を吐いた。 リンの前には貴族の男クレール・ロイヤー、五着で到着したアラン・メイズ、そしてナダールが並んで立たされていた。 「さて、お前達をここへ呼び立てたのは他でもない、そこにいるナダール・デルクマンからクレール・ロイヤーへ不服申し立てがあったからだ」 「ほぅ?」とクレールはこちらに胡乱な瞳を向け、ナダールは慌てた。 「いえ、私は不服を申し立てた訳ではありません、ただ私達は彼の封書を破り捨てたつもりでおりましたので、少々動揺しただけで、決して不服を申し立てたつもりはなかったのです。誤解を与えてしまったのなら大変申し訳ございません」 「ほぅ、私の封書を破り捨てたと?私にはそんな記憶はまるで無い、むしろ逆に私の方がお前の封書を破り捨てたはずなのだが?」 「えぇ、そうですね。ですが、あなたが奪った私の封書は偽物です、本物はここに確かにございます。あなたもそうだったのですか?」 「ふん、私はお前に封書を奪われた記憶など無いわ!」 そう言ってクレールは、言いがかりも甚だしいと怒りを隠しもしない。 「今回のこの試合、ずいぶんと偽封書が出回っていたようだが、心当たりのある者は…?」 一着二着が揃って偽物を掴まされていた件がずいぶん波紋を呼んでいるようで、ナダールはおずおずと手を上げた。 「すみません、私の配下が封書をすり替えたのです。本物はここに…」 ナダールは本物の封書をずらりと並べて見せる。 「ほほぅ、これは凄いな」 リンは目を細めて息子達を見やる。その瞳は褒められているのか、咎められているのか分からず、彼等は冷や汗をかいた。 「でも何故わざわざこんなすり替えを?」
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