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その責を一身に背負う覚悟で、皇帝は儀式を決行し――勇者となる男を、この世界に呼び込んでしまったのだ。
以来、戦況は本来の形成へと引き戻されることになる。
さしものアイラックスも真の超人である勇者には敵わず、敗走を繰り返し――最後には討ち取られてしまうのだった。
これにより王国軍は瓦解し、敢え無く降伏。一人の将軍により覆された戦況は、一人の勇者により押し潰されてしまったのだ。
――戦後、王国は帝国の属国となり、終戦から六年が過ぎた現在でも、ほとんどの国土が帝国の統治下に置かれている。
それでも王国の民は、最期まで国のために戦い続けていたアイラックスを、英雄として讃え続けていた。
一方、勇者はこの戦争における帝国の英雄となったが、王国では「初めて人類に牙を剥いた悪夢の勇者」であるとされ、彼を召喚した帝国に対する皮肉として「帝国勇者」と呼ばれるようになった。
だが、その頃には既に勇者も帝国から姿を消しており――その行方を知る者はいなかった。
帝国側は勇者に失踪された事実を隠蔽するため、最後の戦闘で戦死したと公表したが――彼の死を疑う者は少なくなかった。
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