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昼下がりの街道とあれば、人通りも少なくない。事実、彼らのやり取りを遠巻きに眺めている人達は大勢いる。
だが、観衆の中に少女を助けようとする人間はいない。
帝国兵に逆らえば、何をされるかわからない。それは誰かが警告するまでもなく、一つの常識としてこの街に浸透しているのだ。
「き、騎士団の方を呼びますよ!」
「呼べばいいじゃねーか、俺達に勝てるんならな」
「例のアイラックスの娘とやらは、出稽古で城下町にはいねーんだろ? あいつがいねぇ腰抜けの騎士団が来るってんなら、こっちも誠心誠意を込めてぶちのめしてやるさ」
「……!」
少女は声を高らかに上げ、視線で周囲に助けを求めるが――通行人は困惑して顔を見合わせるばかり。
そうしている間にも、帝国兵達は無遠慮に少女の身体に触れていく。自分の肌を這うように撫でる男達の手に、彼女の表情は凍りつくように青ざめていた。
「ん? 呼ばねーのかい、嬢ちゃん。なら、合意の上ってことだな」
「どうせなら詰所までエスコートしてやろうぜ。あいつらも溜まってるらしいしな」
「そりゃいい。嬢ちゃんならきっとモテモテだよ」
「……た、助けて……!」
「ハハ、怖がるこたぁねーよ。みんな優しくしてくれるって」
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