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彼女が怯えていることを知ってかしらずか、帝国兵達は少女の両脇を固めて移動を始める。それに逆らうことも許されないまま、少女は引きずられるように足を動かしていた。
「お、お待ちください帝国の方々!」
「あん?」
「そそ、その娘は私共の店で小さな頃から働いている大事な看板娘なんです! どうか、どうか乱暴なことは……!」
「……っほぉ~……! 泣かせるねぇ、いい娘じゃねぇか嬢ちゃん。だったらなおさら、俺達で日頃の苦労を労ってあげなくちゃなぁ」
「そ、そんな!」
そんな時。
帝国兵達に縋り付くように、店のオーナーらしき初老の男性が制止に入る。
だが、彼の言葉を真摯に受け止めるような人間達なら、そもそも女性を強引に連れ帰るような真似はしない。
「お願いします、その娘は私達にとっては家族なんです! お代ならお返ししますから、どうかその娘だけは……!」
「――あぁもう、うるせぇな! グダグダ抜かすとこの女だけじゃ済まなくなるぞ!」
「うがっ……!」
「キャアッ! ルーケンさんっ!」
懸命に食い下がる男性の鼻頭に、剣の柄が減り込む。痛烈な一撃を受けた彼は膝から崩れ落ち、帝国兵の一人から罵声を浴びせられた。
その光景を目の当たりにした少女は、我に返ると短い悲鳴を上げ、すぐさま彼のそばに駆け寄ろうとした――が、他の帝国兵達に両脇を固められていては、身動きなど取れるはずもない。
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