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ルーケンと呼ばれた男性は、なおも少女を助けようとするが――彼の覚束ない足取りでは、もう帝国兵達を追うことはできないだろう。
そうしている間にも、少女は帝国兵の男達に連れ去られようとしていた。
街の人々はその様子を見送りながら、やがて申し訳なさそうに目を伏せて、この場を離れていく。帝国兵にだけは、目を付けられないように。
それが、敗戦国の民が生き延びる術なのだから。
――だが。
「ちょっと待った!」
その理から外れた男が一人。
帝国兵達の前に現れた。
「あ? なんだお前」
「女の子に乱暴したり! 人に怪我させたり! そんなことをしてるあんた達を、見過ごすわけには行かないな! さぁ、彼女を離せッ!」
「……はぁ?」
身の程を知らない――としか思えぬ男の言葉に、帝国兵達は唖然としている。
それにより、数秒程度の沈黙が流れ――
「ぶっ……はははは! なにお前! 正義の味方気取りか!? しかもその格好で!?」
「イカれた奴がいるもんだな、王国には!」
「や、やべぇ! 笑い死にしそう!」
――爆笑に次ぐ爆笑。絶え間ない笑い声が、城下町の往来に轟いていた。
王国の騎士団ですら、怯えてまともに取り合えない帝国兵を前に、この台詞を吐けば笑われて当然なのだが……当の本人はきょとんとしている。
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