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「あ、あのな! ジブン、結構真面目に言ってるんだけど……!」
「ひひひ、わかった、わかったからもうこれ以上笑わせんなって。聞かなかったことにしといてやるからよ」
「イイ歳こいてダセェ格好してんじゃねーよ、ギャハハハ!」
「騎士団ごっこはそろそろ卒業しろよ、親が泣くぞ!」
そんな彼の傍らを素通りしつつ、男達は下品な笑い声を上げて往来を進んでいく。一方、少女は現れた男を虚ろな瞳で見つめていた。
彼らが笑う理由には、男の格好も含まれている。
ボロボロに擦り切れた青い服。くたびれた赤いマフラー。傷だらけの木製の盾に、刃こぼれだらけの銅の剣。
下級貴族に雇われた傭兵でも、もう少しマシに武装しているだろう。物乞いがありあわせの物で剣士ごっこに興じているような姿であれば、笑われるのも当然である。相手が強大な帝国兵であるなら、なおさらだ。
黒曜石の色を湛える艶やかな髪や、逞しい身体つきに整った目鼻立ちというまともな特徴を、丸ごと帳消しにするみずぼらしさなのだから。
「ちょっ! ちょっと待てってば! まだ話は終わっちゃいないぞ!」
しかし、そんなことを気にする素振りは全く見せず――彼は声を上げて帝国兵達を説得しようとしていた。
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