悪の勇者と奴隷の姫騎士 第1章 2

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 ルーケンが殴り倒された後だというのに、恐れを知らずに正面に回る男。そんな彼を一瞥した帝国兵の一人は、兜の奥から目の前の障害を睨みつける。 「……おい、グズ野郎。見逃してやるって言ってんのに、何してやがる」 「だから! 彼女を離せって――」 「あっそう――じゃあ死ね」  ドスを利かせた声で脅しても動かない男を前に、帝国兵は苛立ちを募らせ……一振りの剣を、腰の鞘から引き抜いた。  その様子を目撃した民衆から、悲鳴が上がる。緑と青空に包まれた王国の街が、血に塗れることになると察したのだ。  帝国兵に、躊躇はない。 「おらよっ!」 「――ッ!」  彼は瞬く間に剣を上段に構えると、鉄槌の如く振り下ろすのだった。白く煌びやかな刀身が、地面を打ち砕いていく。  ――だが、血は流れていない。  その地面は未だ、石畳の色のままだ。 「んなっ!?」 「なんだ、ありゃあ!?」  帝国兵達は、揃って驚嘆し――上空を見上げる。  そこには、彼らが予想だにしなかった景色があった。 「……フッ」  彼らが見上げた先には、斬られるはずだった男の姿がある。彼は斬撃を浴びる直前、帝国兵達が驚愕するほどの高さまで跳び上がっていたのだ。  人間業ではない。さらにその瞳は、度胸だけの愚か者とは違う――戦士としての凛々しさを漂わせている。 「なんなんだ、あいつはッ!?」     
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