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「そこのあなた達! 何をしているのですか!」
その時。
涼風のように艶やかな声が、街道に響き渡る。
「げっ!?」
「まずい、あのお転婆姫か!」
それを耳にした帝国兵達は我に返ると、焦りを滲ませた表情で互いの顔を見合わせる。既に地面に突き刺さった男のことなど、眼中にはない。
「仕方ねぇ、ずらかるか!」
「……クソッ、敗戦国の癖に偉そうにしやがって。いつか絶対、ヒィヒィ啼かせてやるからな……!」
帝国兵達は短いやり取りの中で撤退することを選択し、足早にその場から逃走していく。その判断に滞りがないことから、この事態には慣れていることが窺えた。
あっさりと少女を手放した彼らは、全く間に姿を消してしまう。
彼女が顔を上げる頃には足音すらなくなっており、現場には石畳に突き立てられた男の下半身のみが残されていた。
「くっ……! あの帝国兵達、どこへ……!」
「……!?」
すると、少女の眼前に――帝国兵達が退く原因となった声の主が駆け付けてきた。
「あ、あ、あの……!」
「……遅くなってしまい、申し訳ありません。――お怪我はありませんか?」
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