悪の勇者と奴隷の姫騎士 第2章 8

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 その変化は――先手を打とうと横薙ぎに払われた、バルスレイの素早い剣をジャンプで回避する瞬間に現れていた。 「む……今の一閃を躱すか」 「……ッ!」  猪突猛進な戦い方ばかりを繰り返していた少年が、一転して冷静な立ち回りを見せて自分の一閃をかわしたことに、バルスレイは目の色を変える。  バルスレイが見せる僅かな仕草一つから、次の攻撃を読み――回避する。それは口にすれば簡単だが、彼の剣速に対応できる身体能力が要求される、至難の技なのだ。  ゆえに――彼と戦い、再起不能にされた剣士を数多く見てきているギャラリーは、竜正の動きに度肝を抜かれていた。彼を妬み、野次を飛ばすために来ていた近衛騎士達も、その戦いぶりに圧倒されている。  帝国騎士共通の剣技である帝国式闘剣術の訓練を始めて、三ヶ月程しか経っていない少年が、あのバルスレイ将軍と渡り合っている。  ――その事実が、人々に衝撃を齎し。  確信を呼んだ。  彼は――竜正は本当に、伝説に伝わる勇者なのだと。 (今までのような、「母親に会いたい」という動機が生む「焦り」に突き動かされた戦い方では、このような冷静な立ち回りは出来ん。負け続けたことで考えを改めたか、あるいは――他に負けられない理由が出来たのか)     
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