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一方、彼と相対するバルスレイも竜正の急激な成長に目を見張っていた。実際の剣技は未だに荒削りではあるものの、竜正が帝国式闘剣術の極意を徐々に――そして確実に吸収しつつあることを、剣を交えることで実感しているのである。
このまま成長し続けるのなら……あの古の剣術を、伝授できるかも知れない。そんな考えが、バルスレイの脳裏を過る。
(だが、あの剣術を伝える前に――確かめねばなるまい。この少年が出し切れる、真の全力というものを)
しかし、まだ足りない。まだもう一歩、足りない。そう判断するバルスレイは、瞳をさらに鋭く研ぎ澄まし――さらに素早い剣閃を放つ。
「ぐわぁッ!?」
急激に速度を上げる老将の剣。その速さに対応しきれず、竜正の土手っ腹に強烈な刺突が炸裂するのだった。
骨を軋ませ、内臓を押し潰すその衝撃に、竜正は目を見開き苦悶する。地べたを転げ回り、震えてうずくまる彼の姿に、人々は今までバルスレイに敗れてきた騎士達の影を重ねるのだった。
――やはり、如何に勇者といえど付け焼き刃ではこの程度なのか。
――バルスレイ将軍に勝てる騎士は、この帝国にはいないのか。
――アイラックスを倒せる人間など、ありえないのか。
口々に囁く人々の声も、激痛に苦しむ竜正には届かない。彼は痛みに苛まれながら、自分とバルスレイとの間にある絶望的な差を、改めて思い知らされるのだった。
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