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「……やはり勇者の力を借りねば、この戦いを終わらせることは出来んか。――彼を呼び出してくれ。早々に決着を付ける!」
敵方の将軍も、その気勢に息を飲む。だが、呑まれてばかりでは数で優位に立っていても戦には勝てない。二角獣を象った帝国軍の国旗が、風に靡いて激しく揺れる。
帝国の兵士達は王国軍の気迫に圧倒され、徐々に後退している。ここで流れを変えるには、「転機」が必要だ。
――あらゆる気力をねじ伏せる、絶対的な「転機」が。
「奴らは戦意を削がれつつある……今だ! 畳み掛けて立て直す暇を与えるなッ!」
「将軍! 前方から、急速に接近してくる敵兵が――き、騎兵の速さではありませんッ!」
「なにッ……!? ……来たか!」
そして――王国軍の攻勢が、流れに乗じて行こうとする時。
その「転機」が、彼らの前に立ちはだかろうとしていた。
後退していく帝国軍と入れ替わるかのように、王国軍へ直進していく影。普通の兵士よりも小さな――少年のような体躯を持つその影は、馬にも劣らぬ速度で王国の軍勢に迫ろうとしていた。
「あれが……先の戦で先遣隊を皆殺しにしたという……!」
「『帝国勇者』かッ……!」
戦場を一望していたアイラックスと、その側近である王国騎士団長は――影の実体をいち早く看破し、戦慄する。
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