悪の勇者と奴隷の姫騎士 第2章 8

5/9
前へ
/668ページ
次へ
 その非情な現実が、竜正に重くのしかかるのだった。 (俺が大人になるまで待てって、言いたいのか!? 冗談じゃない、それまで母さんを独りぼっちになんて……させるもんか!)  それまで保っていた戦いのリズムを捨て、竜正は元のがむしゃらな剣術でバルスレイに挑みかかる。だが、二人の間にある差は勢いで覆せるような甘いものではない。  喉に痛烈な刺突を受け、竜正は再び吹き飛ばされてしまうのだった。 「げほっ……がはッ!」 「――これが真の戦い、というものだ。この壁が越えられぬまで、貴殿を戦場に立たせるわけにはいかん。まして、この帝国に伝わる秘宝である『勇者の剣』を託すことなどできん」  冷酷なバルスレイの言葉が、竜正の胸を締め付ける。  ――自分ではここまでが限界なのか。一日も早く母に会おうなど、甘かったのか。 (ごめん……母さん。俺は、俺は……)  その弱い心が、竜正の身体から力を奪い――彼の剣を握る手を、緩ませていく。  もはや、今日の彼には立ち上がる力などない。  誰もが……バルスレイさえもが、そう感じた瞬間であった。 「――勇者様ぁあっ!」  こんなむさ苦しい騎士達の世界とは、最も無縁であるはずの。  静かな一室で、療養しているはずの。     
/668ページ

最初のコメントを投稿しよう!

892人が本棚に入れています
本棚に追加