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その非情な現実が、竜正に重くのしかかるのだった。
(俺が大人になるまで待てって、言いたいのか!? 冗談じゃない、それまで母さんを独りぼっちになんて……させるもんか!)
それまで保っていた戦いのリズムを捨て、竜正は元のがむしゃらな剣術でバルスレイに挑みかかる。だが、二人の間にある差は勢いで覆せるような甘いものではない。
喉に痛烈な刺突を受け、竜正は再び吹き飛ばされてしまうのだった。
「げほっ……がはッ!」
「――これが真の戦い、というものだ。この壁が越えられぬまで、貴殿を戦場に立たせるわけにはいかん。まして、この帝国に伝わる秘宝である『勇者の剣』を託すことなどできん」
冷酷なバルスレイの言葉が、竜正の胸を締め付ける。
――自分ではここまでが限界なのか。一日も早く母に会おうなど、甘かったのか。
(ごめん……母さん。俺は、俺は……)
その弱い心が、竜正の身体から力を奪い――彼の剣を握る手を、緩ませていく。
もはや、今日の彼には立ち上がる力などない。
誰もが……バルスレイさえもが、そう感じた瞬間であった。
「――勇者様ぁあっ!」
こんなむさ苦しい騎士達の世界とは、最も無縁であるはずの。
静かな一室で、療養しているはずの。
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