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「――だが、これでようやく貴殿が急成長した理由が読めた。さぁ、皇女殿下の御心に応えてみせよ。ここで屈するようなら、あと五年は修練を続けてもらう」
「……ッ!」
鋭い眼光で自身を射抜くバルスレイと、竜正は倒れ伏したまま視線を交わす。その眼には――もはや、諦めの色はない。
(誰が……諦めるものかよ! フィオナがあんなにも、俺のために……頑張ったのに! 俺がここで挫けたら、全部が無駄になる! フィオナの想いが、無駄になるッ!)
震える両足に鞭打ち、ふらつきながらも――立ち上がる。身体こそボロボロだが、その瞳は戦う前より熱く煌めいていた。
(無駄になんて、させない! 俺が、させるものかァッ!)
そして、剣を握る力が――最高潮に膨れ上がり、眼前の敵へ狙いを定める。その一点に集中された殺気を浴び、バルスレイの気力が一気に引き締まった。
(来るか!)
そう身構えるバルスレイを目掛けて、竜正は刺突の体勢で突進する。先程と変わらない様子で突撃してくる少年に対し、老将は油断することなく眼を細めた。
(刺突と見せかけて横薙ぎか。切り上げか。さぁ、来るなら来い。私も、その全力に応えてみせ――)
そして、双方の間合いが――バルスレイが届き、竜正が届かないところまで詰まる瞬間。
竜正の剣が、手元から離れ――
(――なんとッ!?)
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