892人が本棚に入れています
本棚に追加
――矢の如し速さで、バルスレイの胸を打ち抜くのだった。
「届かないのなら、届かせればいい……! そうだよな、バルスレイさんッ!」
少年は反動により跳ね返ってきた剣をキャッチし、慢心することなく残心を取る。敵に油断を見せてはならない、という師の教えを真摯に受け止めている証だ。
(信じられん……! 荒削りな狙いだったとはいえ、私に教わる前から己の感性のみで投剣術を放つとは……!)
一方、胸を押さえているバルスレイは、竜正が咄嗟に見せた気転に目を見張っていた。そして、今こそ彼は確信する。
この若き勇者こそ、失われた帝国の秘剣――帝国式投剣術を受け継ぐに相応しい剣士であると。
(幼いこの少年に託すのは非情かも知れん……が。もはや、彼しかいまい。アイラックスを越えられるのは――この世界に、彼一人だ)
そして――バルスレイ将軍が一本を取られた、という非常事態を目の当たりにして静まり返っていたギャラリーを前に、老将は高らかに宣言する。
「――見たか! これぞ、我が帝国が誇る伝説の勇者の剣! この剣が我らの切っ先となり、帝国の未来を切り拓くのだ。皆の者! この若き勇者と共に、帝国の安寧を築き上げるのだッ!」
最初のコメントを投稿しよう!