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「そのためにも今は、勇者である貴君と――この『勇者の剣』が必要なのだ」
「……これが、勇者の……」
剣を手に、皇帝は玉座から竜正の前へと、静かに足を運ぶ。やがて、勇者である少年の前に――その剣が捧げられた。
「包帯を取るがいい。貴君には、その権利がある」
「……」
「勇者の剣」が纏う、ただならぬオーラ。包帯の上からでもわかる、その威圧を受け――竜正は、言葉を失っていた。
そして、そのまま皇帝の言葉に無言で頷き、彼は剣を取る。……次いで、その感触に、彼はある違和感を覚える。
(なんだ……この形。この国の騎士達が使ってる剣と、全然違う)
「勇者の剣」と聞いて、帝国騎士の剣に近い形状を予想していた竜正にとって――実際に触れた「勇者の剣」のシルエットはあまりにもイメージからかけ離れていたのだ。
――これは、まるで……。
「……!」
吸い寄せられるように手を伸ばし、包帯を巻き取っていく。彼の脳裏に渦巻く「まさか」という感情は、剣が包帯から露出していく毎に膨れ上がっていく。
そして――黒く塗られた剣の鞘が完全に露わになる時。その「まさか」は、確信に変わった。
「これ、は……」
黒塗りの鞘。微かな曲線を描く刀身。柄巻きを施された木製の柄。
それは、少年がよく知る形だった。
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