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悪の勇者と奴隷の姫騎士 第2章 10
竜正が「勇者の剣」を手にして――さらに一ヶ月が過ぎた頃。
「よいな……タツマサ」
「……ああ」
争いとは無縁の世界に生きていた少年が、戦士として戦場に立つ日が――ついに訪れたのだった。
彼の目には今、度重なる戦いにより荒れ果てた大地が広がっている。
「かつては、美しい草原だったこの地も……幾年も続く戦により、見ての通りの有様だ。一日も早く、この戦争に終止符を打たねば、王国も我々もいたずらに犠牲を増やすのみ。――その鍵を握っているのは、お前なのだ。わかるな?」
「……わかってる」
「……なに、臆することはない。お前には私から勝ち取った『勇者の剣』と、その身に纏う『勇者の鎧』があるのだ。お前は迷うことなく、戦えばいい」
「……」
かつて、先代の勇者が纏ったと言われている「勇者の鎧」を身に付けた彼の姿は――少年の故国に伝わる「武者」の面影を色濃く残している。
偶然にも、生前の先代勇者と近しい体格を持っていた彼に託された、漆塗りの甲冑は――帝国騎士達の中でも異彩を放つ形状であった。
(……そうだろうな。先代の勇者が戦国時代の鎧武者だったのなら……俺くらい小さくたって不思議じゃない)
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