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竜正は首に巻かれたマフラーを握り、唇を噛み締める。――そして、礼を言おうと顔を上げた瞬間。
「敵襲! 我が軍の前方に、王国軍の先遣隊を確認ッ!」
双角の兜で頭部を固めた帝国軍の斥候が、息を切らしてバルスレイの前に駆けつけてきた。片膝を着き、必死の形相で戦況を伝える彼の眼差しを見遣り、銀髪の老将は一瞬のうちに目の色を変える。
「小手調べ、というところか……。本来ならば、切り札である勇者は本隊との決戦まで温存しておくべきだろうが……」
そして、力無い少年とは違う……一人の戦士としてここにいる、竜正の瞳を一瞥し。
「ここで彼らの出鼻を挫けば、戦局を変えることもできよう。――現代に蘇りし勇者の初陣だ! 皆の者、勇者タツマサと共に……王国軍を討つぞッ!」
腰にした剣を天へ掲げ、竜正の出撃を宣言するのだった。彼の宣言を受け、兵達はけたたましい雄叫びを上げ、それに応えていく。
竜正は、そんな彼らの気勢にたじろぐ様子もなく――むしろ焚き付けられたかのように、剣呑な眼差しで戦場を射抜いていた。
(……それにしても。初陣でありながら、ここまで落ち着き払っているとは……。やはり勇者とは、人の常識からは逸脱した存在なのであろうな)
一方。
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