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バルスレイは新兵が抱えるような、過度な緊張感を全く見せず、あくまで落ち着いた物腰で戦場を見つめる少年の姿に、内心で驚嘆していた。
いくら勇者とはいえ竜正という少年は、ただの人間であるはず。母に会いたいという想いゆえに、焦りを募らせるような――情に溢れた人間のはず。
だが、今の彼にはそんな「人間らしさ」がまるでない。戦うためだけの人形のような――ある種の不気味ささえ、その瞳に滲ませていた。
本来ならば、そこで気付くべきだったのだろう。――彼はすでに、「勇者の剣」と銘打たれた妖刀に魅入られているのだと。
しかし。竜正が「勇者」という特別な存在であることが、バルスレイの無理解を招いていたのだ。
真の勇者は初陣であろうと、恐れることはないのだと……戦いの世界に慣れ過ぎた老将を、納得させてしまったのである。
そして、その納得は――竜正への誤解となるのだ。
――やがて先遣隊を狙う、帝国軍の弓による迎撃を皮切りに……戦が始まった。
轟く怒号。響き渡る、剣と剣が交わる音。散る命と、飛び散る血潮。
命を削り合う、男達の叫びが――絶え間無く荒野にこだまする。
「……ッ!」
そのさなかで。
唇を噛み締め、恐怖を振り払うように突き進む少年は、敵軍の群れに飛び込むと。
「――ぉおぉおおッ!」
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